棚田嘉十郎(平城宮跡保存の先駆者)を顕彰へ |
平城宮跡の保存に生涯をかけて奔走し、無念の自刃で果てた棚田嘉十郎(1860〜1921年)の功労を遷都1300年祭で顕彰し、実り豊かな展開につなげようと、奈良市が具体的な事業を検討している。公民館に勤務する一人の財団職員の熱意が市政に伝わつたもので、棚田翁の確かな足跡が市民の心に響く事業が展開されそうだ。
財団繊員が提案、市長も意欲
きっかけは、市立南部公民館(同市生涯学習財団運営)施設長の上安菫子さん(63)が今年4月、同館の書庫を整理中、「小説棚田嘉十郎 平城宮跡保存の先駆者」(中田善明著)という書物を見つけたこと。貧窮の中で懸命に運動する足跡が克明に描かれていた。
出版から20年がたち、本は絶版になっていたが、上安さんは県内外の古書店を1ヶ月かがりで歩いて探し、京都市内で念願の1冊を購入。「1300年祭で嘉十郎を顕彰してください」と本書を添えて藤原昭市長に手紙を出した。
市長は「あらためて嘉十郎の苦労を知ることができた」と丁寧な読後感を上安さんに伝え、顕彰に前向きであることを示唆。具体的な検討が近く開始されるもようだ。
市民との協働的な展開が期待されており、絶版となっている小説の復刻運動をはじめ、英訳活動、嘉十郎劇の上演など、いろいろなアイデアが出ている。
嘉十郎は同市須川町の生まれ。奈良公園の植樹を担った植木職人で、たびたび上京して著名人の賛同に奔走。連動が軌道に乗ったころ、関係者の背任的行為に遭い、責任を痛感して自刃した。享年61歳。国の史跡指定はその翌年。
上安さんは「嘉十郎は日本人の誇り。遷都1300年祭に、.奈良は今盛りだと御霊(みたま)に報告したい」と話している。