藥師寺東塔創建当初の宝相華文様 |
約110年ぶりの解体修理が進む、薬師寺東塔(8世紀前半ごろ、国宝)の天井裏板などから、創建当初に描かれたとみられる「宝相華文様」の色鮮やかな彩色が見つかった。一部が天井の桟に隠れて光が当たらなかったため、1300年前の色彩が奇跡的に残ったと考えられる。調査成果が「奈良文化財研究所紀要2015」に掲載された。
三重塔の初層の天井を解体したところ、格子に組まれた桟に覆われた部分に赤や青、禄、黄などの彩色を確認。ハスやアヤメなどをモチーフとした空想上の花「宝相華」文様の一部で、淡い色から濃い色へと段階的に塗る繧繝彩色という技法が使われていた。
▽桟に隠れて残る?
彩色には光や熱が大敵であり、露出した部分はほとんど退色。初の設計からずれて桟の下になった部分だけ、偶然に残ったと考えられるという。
蛍光エックス線分析などの結果、赤色は酸化鉄の弁柄(べんがら)などのほか、有機染料の臙脂(えんじ)が使われた可能性も指摘されている。臙脂は「カイガラムシ」という昆虫の分泌物から取る貴重な染料で、正倉院宝物などにも残る。
調査した奈良教育大学の大山明彦教授(絵画記録保存)は「有機染料が、これほど見た目も鮮やかに残っているのはまれなこと。緑色に見えた部分が、青色と緑色に使い分けていたことが分かったことも重要」と予想外の発見に驚く。
一方、科学的分析を行った奈文研の高妻洋成・保存修復科学研究室長は「臙脂のほかの有機染料も視野に入れつつ詳細な分析を行いたい」としている。