行方不明の「香薬師像」(新薬師寺蔵)の右手見つかり、奈良博で公開中 |
戦時中に新薬薬師寺から盗まれたまま、行方が分からない白鳳時代の仏像の傑作、香薬師像(銅造薬師如来立像=国指定重文〜新薬師寺蔵)の右手が見つかり、昨年12月27日から奈良博「なら仏像館」で公開されている。昨年、右手だけ盗難を免れて神奈川県鎌倉市の寺院で保管きれていたことが判明したもの。返還を受けた新薬師寺が安全上からの理由で同博に寄託した。同博は「本体がないために断定はできないが本物とみてほぼ間違いない」としている。
金銅製の香薬師像(高さ約73cm)は、法隆寺の夢違観音像(国宝)、深大寺の釈迦如来倚像(重文)と並び、「白鳳三仏」と称される。過去に三度の盗難に遭い、明治23年と44年の時は発見されたが、戦中の昭和18年に盗まれた後は行方不明になっている。
3度目の盗難前にレプリカが3体製作され、新薬師寺、奈良博、鎌倉の三ヶ所に分置されたと聞く。この時に補作された右手が本体に取りつけられ、本物の右手は新薬師寺に残されていたことが判明したという。
右手は高さ約8.6cmで、実物の石膏型から作ったレプリカと寸法が同じ、夢違観音像の右手と酷似し、同じ作者の可能性が有るーなどの理由から本物と推定した。更に他の専門家の鑑定や、東文研の化学分析の結果でも「白鳳時代の金銅仏として矛盾がない」という結果が出たという。
これらの経緯についてはノンフィクション作家の貴田正子『香薬師像の右手 失われたみほとけの行方』講談社刊に詳しいとのこと。
この「仏手」は現在、「なら仏像館」第5室に展示されている。手のひらや指がやわらかくふくらみ、指先が描き出す優雅な曲線が白鳳仏の特徴を示しているとされる。奈良時代の火事で焼けた際についたとされる肌の荒れも残る。
初めて見た時はありがたさを感じたというニュースもあり、普段から目にしながら鑑定がつく前と後で感じ方が違ったのかという印象を受けた。先ごろ有名な某鑑定TV番組で国宝級の窯変天目茶碗と評価されたのち、取り下げられた一件があるそうだが、人の心は微妙だなと今更の如く感心する。ただ、三度も盗難に遭うなどと云う魅力をもった仏さまが、いま何所にいらっしゃるのだろうか?。